日本食品照射研究協議会 本文へジャンプ


第54回大会 教育講演会/研究発表会

平成30(2018)年11月20日(火) 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター本部
                                     (東京都江東区青海2-4-10)

 教育講演  


食品照射技術の世界的な発展と展望
Yves M. Henon (International Irradiation Association 国際放射線協会)

 1950年代初頭、科学者たちは、食品の長期保存や、より安全に食するために、電離放射線を用いる可能性を探求し始めた。それから70年、食品に対する放射線の化学的、栄養学的および微生物学的影響を評価する研究が実施され、「照射された食品は安全である」という国際機関の主張が繰り返されてきたが、これらは十分ではなかった。規制の調和の欠如、照射施設の建設に必要な比較的高額な投資、とりわけ、“消費者はこう反応するだろう、という思い込み”と“表示に対する独特の要件”が、この技術が遭遇した主な障害物である。ただし、食品照射は、徐々にではあるが、進展を続けている。照射食品としては、香辛料が世界中で最も大きく、次いでペット用玩具(Pet Treat)などの用途で成功している。世界的な規模で正確な統計を得ることは困難であるが、現在の照射食品の流通量はおおよそ100万トンに達すると推定される。
 化学物質の代替としての照射は拡大しており、ほとんどの場合は特定の化学物質の禁止と引き換えに開始されている。たとえばオーストラリアでは、有機リン系殺虫剤のジメトエートやフェンチオンの禁止がきっかけとなり、生鮮果実や野菜の照射が開始された。また、生鮮物の検疫処理において、臭化メチルの代替として照射が利用された例もある。植物検疫のための照射処理は、当初のほぼゼロから2017年には約3万トンの照射生鮮物が国際貿易に組み入れられるまでに増加した。メキシコ、オーストラリア、ベトナムがその3大輸出国で、米国、ベトナム、ニュージーランドが3大輸入国である。このサクセスストーリーからは多くの教訓が導かれる。特に消費者受容に関する経験には大いに学ぶべきところがある。
 最近の低エネルギー電子線/X線発生装置の開発は、食品照射の新しい展望を拓く。低エネルギー加速器は、既存の生産ラインに容易に組み込むことができるため、食品産業における様々な作業工程の中にようやく照射処理が位置づけられることになるかもしれない。